中国残留邦人・在日華人研究所の門出に際し、心よりお慶び申し上げます。
私は本日、神戸市における「中国残留邦人への理解を深める集い」の準備のため、誠に遺憾ながらこの会への出席が叶いません。書面をもって、祝意を表させていただきます。
中国残留邦人・帰国者をめぐる問題は今、さまざまな意味で大きな転換点を迎えています。
残留邦人一世とその配偶者の方々は、申すまでもなく超高齢です。日本国内におられる方はもちろん、中国におられる方も含め、尊厳ある人生をまっとうしていただくためにも、早急に解決されるべき課題が山積しています。また、そうした方々が歩まれてきた人生の軌跡を正確に記録し、後世に伝えることも、喫緊の重要な課題となっています。
さらに今、中国帰国者の二世問題も、重要な解決課題として立ち現れています。多様な属性をもつ二世は、一方でこれまでの日本人や中国人には果たすことができなかった新たな可能性を切り拓いています。しかし他方では、残留日本人と同様、あるいはそれより一層深刻な「生きづらさ」を、世代を越えて受け継いでいます。そしてこうした多様性は、三世・四世においても明らかになりつつあります。
中国残留邦人・帰国者に関する研究も、日中双方の若手・中堅の研究者によって着実に進められ、新たな知的地平を切り拓きつつあります。しかしながら研究とは、つねに「正解のない問い」へのたゆまぬ挑戦です。無限の現実に対する、有限の人間による投企です。研究者は誠実であろうとすれば、迷い、行き詰まり、自らの無力さを思い知らねばなりません。そのような時、新たな一歩を踏み出すには、研究者仲間の協力・コミュニティが絶対に必要です。
こうした様々な意味で、本研究所の創設は、まさに時宜を得たものであり、歴史的にも大きな意義があることと確信しております。
そしてこの研究所は、中国残留邦人・帰国者の問題だけに視野を閉ざしてはならないと思います。もちろん、研究対象を無原則に拡散させることには慎重であるべきでしょう。
しかし中国残留邦人・帰国者の問題に取り組む研究者・実践者は、自らの研究・実践を通して、社会に厳存する理不尽・不正を正し、よりよい社会を創り上げていこうという「志(こころざし)」を共有しているのではないでしょうか。
本研究所が、そうした志を結集し、未来を切り拓く知の拠点として発展されることを心より祈念し、私の祝辞とさせていただきます。
摂南大学教授・「中国残留日本人孤児を支援する兵庫の会」世話人代表
浅野慎一